釜山日報 1930年(昭和5年)2月21日付より引用 漫然渡航と失業救濟
漫然渡航者の阻止と鮮內失業者の救済を目的とした1,300万円の土木事業は、1931(昭和6)年度から実施された窮民救済土木事業のことと思われる。不況や干害、水害の影響による経済的困窮への応急対策として、地方費、公共団体の事業として3ヶ年で総工費予算約5,778万円を組み国庫補助を仰ぎ、道路改良工事に2,391万円、漢江、大同江など19河川の治水工事に約2,480万円、開城など10地点に上水道新設、新義州など2地点の上水道拡張といった上水道工事に約223万円、清津などの下水道敷設工事に43万円、江口港など10漁港の修築工事に約264万円を投じた。
この記事は釜山日報のものであり、地元の要望を反映している面は大きいとは思うが、救済事業として朝鮮南部とくに釜山の属する慶尚南道に関係する鉄道の敷設を熱心に主張している。慶州と全州を結ぶ鉄道は、この記事の書かれた1930(昭和5)年2月の時点では、裡里駅(現在の益山駅)から全州駅の区間が営業中であり、全州から南進して館村に至る区間が工事中(この年の7月に完成)であった。また、館村から南原区間は5月に着工され、翌年度には全州駅・南原駅間の営業が開始され、さらに窮民救済事業として南原・谷城間の鉄道敷設が進められた。
もう一つ記事中で主張されている「東海線の南方慶南線」は釜山駅から蔚山駅(現在の太和江駅)の区間を結ぶものであろうが、この時点ではまだ開通しておらず(東海線自体は蔚山駅から慶州駅、浦項駅を経て鶴山駅に至る区間は営業している)、開通して「東海南線」として営業を開始するのは1934(昭和9)年のこととなる。
本記事は韓国国史編纂委員会韓国史データベースに所蔵。
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漫然渡航と失業救濟
總督の一千三百萬圓
土木工事と鐡道建設方針の變革
齋藤總督は目下東上、拓務、大藏兩大臣と重要なる折衝を試みてゐる。それは朝鮮より內地へ溢れ出づる漫然渡航者の阻止と鮮內失業者の救濟を目的として一千三百萬圓の土木事業を計畫してゐることである。而して此の一千三百萬圓の七割は治水事業に、他の三割は治道計畫、砂防事業に振向けられるものの如くであるが、治水事業は既に進捗中のもの多く、只繼續年度割の少なき爲め進捗意の如くならぬので、之れ等の工事を繰り上げを行ふか、新規に治水事業を起こすかは不明である。倂しながら、治道工事の目的が漫然內地渡航の失業者を鮮內に喰ひ止むるにありとせば、之等の土木工事は京城以南の南鮮に主力を注がねばならぬ。特に內地渡航鮮人の首位は慶南であり、次いで慶北全南等であるから、其の施工に就ては地理的に經濟的に最も愼重なる硏覃を要する所である。
二
斯かる巨額の土木費を內務局の管掌下のみに僅かに一ヶ年に消化し切れるかどうかは聊か疑問の餘地あり。公債に依るか、低利資金を利用するか、現內閣の緊縮方針よりして其の實現にも尙ほ多大の疑問を存するけれども、兎に角齋藤總督が非常なる決心を以て此の大事業の通過を圖らんとする努力は朝鮮統治の上で極めて好き效果を奏するものとして、二千萬民衆は極力その成立を助成し世論を高潮してその實現を促進すべきである。さりながら失業救濟土木事業は單に河川改修と道路の改善にのみ局限さるべき性質のもので無く鐡道に港灣に其の他地方諸多の土木事業の緊要なるものにして、多年の懸案が未だに解決せず、その實現のいづれの日なるかを危惧せらるるものが頗る多いから、之等の事業に就ても緩急を圖ってその解決を見ることは最も望ましい次第である。
三
殊に鐡道網三億二千萬圓の大工事が鐡道公債半減に出せられ、その進行の遲々たるは甚だ遺憾なる上に、南鮮地方は僅かに慶全線が北方から起工されてゐるのみで、慶南北兩道の如き未だ何等の恩惠に均霑することを得ない、彼の東海線の速成と慶南北未曾有の旱害救濟とを結び付けて地方民が盛んに熱望するのも洵に道理ある主張であり、旱害民救濟と鐵道網計畫進行と一石二鳥の效果を擧げる上に於て單に當該地方民の翹望のみならず、國鐵の建設改良の經濟的見地に立脚するも極めて緊要であるから、敍上一千三百萬圓の土木工事の實現を祈ると共に東海線の速成にも全力を傾注して欲しいものである。
四
勿論鐡道の建設は當初より年度割を定めて決してはゐるが、旱害救濟の如き非常事に際しては之れが救濟事業に貢獻するに於て、他の線路に於ける建設改良の餘裕を集め、或は繰替へを行ひて救濟の急に迫れる地方に集中する如き便法も講ぜらるべく、曾計法に抵觸せざる範圍內に於て相當に工夫さるべき餘地の存すること思惟する。吾等は齋藤總督が萬難を排し中央政府の容認に成功して疲弊せる朝鮮に一大福音を齎らさんことを切望すると共に、漫然渡航阻止が慶尙南道次ぎは慶北、全南の地元に於て、極力授職授產の必要ある點に鑑み鐵道網の建設計畫に變革を加へ、北方の建設にのみ主力を注げるを南方にも割き、東海線の南方慶南線の南方に路盤工事のみにても起し得らるる樣最善の努力を注ぎ、以て困憊せる失業民を救ひ母國の重要社會問題として、脅威の種となれる漫然渡航阻止に的確なる效果を擧げむことを切望するものである。